心房細動のカテーテルアブレーション
心房細動のカテーテルアブレーションとは?
1990年代に心房細動のカテーテルアブレーションが考案されて以降治療機器の急速な発達により、現在では日本のガイドラインでも一部の患者様において、第一選択の治療法になっております。本章では、心房細動のカテーテルアブレーションについて記載しておりますが、よりよく理解するために、①心房細動、②カテーテルアブレーション、についてもお読みください。
図1 心房細動のカテーテルアブレーション(高周波による肺静脈隔離術)の実際
心房細動カテーテルアブレーションの実際
脚の付け根にある大腿静脈といわれる太い血管からカテーテルを血管内に入れ、心臓まで進めます。心房細動の原因となる異常頻回興奮の9割は肺静脈起源といわれています。肺静脈とは、肺で酸素を供給された血液が心臓に帰ってくる血管であり、左房に上下左右、合計4本あります。治療方法は、肺静脈周囲を上下の肺静脈をまとめて囲い込むように焼灼する方法(肺静脈隔離術)が一般的です。肺静脈周囲を焼灼することにより、肺静脈内から発生する異常興奮が心臓に伝わらず、心臓の脈が正常に保たれると考えられています。焼灼方法は、高周波通電による方法(図1、および動画1)と冷凍凝固による方法(動画2)があります。高周波の方法は一点一点20秒から30秒かけて焼灼を行っていき、点と点をつなげて肺静脈周囲を全周性に焼灼します。一方冷凍凝固はクライオバルーンという風船を使用して、肺静脈周囲を焼灼します。1度の冷凍凝固(3分程度)で1本の肺静脈周囲を全周性に焼灼できるという特徴があります。どちらの方法が良いかは患者さん個々の病状(心房細動の種類や左房の形態など)で異なります。
動画1. 心房細動のカテーテルアブレーション(高周波アブレーション:CARTO System)の実際
CARTO Systemによる右下肺静脈の焼灼を行っている。焼灼部位にカテーテル先端を留置した後、カテーテル先端の安定性と先端荷重を確認し通電を開始した。焼灼出力(パワー)、焼灼時間、先端荷重により算出される数値が目標まで到達するとタグが表示される。
動画2. 心房細動のカテーテルアブレーション(クライオバルーンアブレーション)の実際
日本メドトロニック株式会社提供
Cryo balloonによる左上肺静脈の冷凍凝固を行っている。Cryo balloon カテーテルを電極付きワイヤーにより左上肺静脈に誘導し、左上肺静脈手前までカテーテルを進める。ここで風船を膨らませ、左上肺静脈を閉塞させ、冷凍凝固を開始。3分の冷却により左上肺静脈の電気的隔離が完成する。
治療の利点
薬物療法と比較し、カテーテルアブレーションが優れている点は、洞調律維持効果が高いということが示されております。薬物治療を行っても十分な症状の改善に至らない患者さんには本邦のガイドラインでは最も推奨される治療となっています。また腎機能障害、肝機能障害をお持ちの患者さんや、洞機能や房室伝導能が低下した患者さんなどでは、抗不整脈薬を長期間安全に使うことが難しいといった問題があります。このような患者さんにも当院ではカテーテル治療をお勧めしています。
治療の問題点
心房細動カテーテルアブレーションは薬物療法と比較し、洞調律維持効果が高いことから最近では、薬物治療に先行してカテーテル治療を行う方がよいのではないかといった報告もあります。
しかしカテーテル治療においてもいくつか問題点があります。ひとつは、治療成績が良くなったといっても術後再発があることが挙げられます。またカテーテル治療の侵襲に伴う合併症もありますので詳しくみていきましょう。
急性期再発と慢性期再発
再発には術後3か月以内に再発するものと、術後3か月以上たって再発するものがあります。術後3か月以内に再発したものは急性期再発といわれ、自然軽快するケースがあります。焼灼による浮腫や炎症が原因で不整脈が起こると考えられております。一方3か月以上経過してから再発するものは慢性期再発といわれております。慢性期再発は、一般的に発作性心房細動で2割程度、持続性心房細動で3割程度の再発が1年以内に起こります。再発する原因としては、焼灼部位における伝導再開と肺静脈以外に心房細動の原因となる異常頻回興奮が存在する可能性や心房粗動、心房頻拍など今までは認めなかった心房性頻脈性不整脈として再発する場合があります。再発した場合には、不整脈の頻度や症状などにより、2回目のカテーテル治療、3回目のカテーテル治療を行う場合もありますし、お薬の治療で経過をみる場合もあります。
治療に伴う合併症
カテーテルアブレーションに伴う一般的な合併症としては、穿刺部の出血を含む血管損傷、感染症、臓器損傷(肺、心臓)、脳梗塞があります。詳細は「カテーテルアブレーションとは」をご参照ください。心房細動カテーテル治療に特有の合併症として、食道損傷があります。左房の背側には食道があり、焼灼部はちょうど食道の前面になります。左房の焼灼熱により食道潰瘍や食道神経叢損傷が起こることがあり、時に左房食道瘻といった重大な合併症のリスクもあります。当センターでは食道損傷を避けるため、食道造影により食道の位置を確認し食道付近での焼灼時間を短くするとともに食道内に留置した温度センサーにより食道損傷を早期に発見できるようにしております。
患者様特有の病状や詳しい検査の方法・治療方法、合併症については、かかりつけの先生または担当医にご相談ください。
文責 川崎