下肢閉塞性動脈硬化症
下肢閉塞性動脈硬化症とは?
足(下肢)の動脈に動脈硬化が起こり、血管が狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)して、足を流れる血液が不足し、それによって痛みを伴う歩行障害が起きる血管病です。重症の患者さんは、足を切断しなければならない場合もあります。
主な症状
症状として最も多いものが間歇性跛行です。これは「歩くと足が痛く、重くなって歩けなくなり、休むとよくなる」というものです。足に冷たい感じやしびれを伴うこともありますが、これらは背骨の異常などによる神経障害が原因のときもあり、整形外科もしくは神経内科での精密検査が必要な場合もあります。
さらに重症化すると「じっとしていても足が痛い」、「治りにくい潰瘍が出来る」ようになり下肢の壊疽から切断に至ることもあります。
検査
1. 足関節上腕血圧比(ABI)
両腕と両足の血圧を同時に測り、比率をだします(図1)。通常は足の血圧の方が高いので、1.0以上が正常となりますが、足の血流に異常があると1.0未満となり、特に0.9未満では下肢閉塞性動脈硬化症の可能性が高くなります。簡易的な検査ですがスクリーニング検査としては非常に信頼度も高く有用な検査です。
図1
2. 下肢動脈エコー(超音波)検査
ゼリーを付けて体表面から超音波を当てて観察をします。検査中すぐに下肢全体を描き出すことができ、カラードプラ法などを併用することで、詳細に血管病変をとらえることができるのが利点です。
3. CTアンギオグラフィ、MRアンギオグラフィ
CT検査では点滴を確保した上で造影剤を注入し、下肢動脈が造影されたところで撮影を行います。動脈の詳細な観察可能です。ただし、造影剤を使用しますので、この検査はヨードおよびヨード造影剤アレルギーや慢性腎不全の患者さんにはできません。
MR検査では放射線も造影剤も使わずに、血管の様子を描きだすのが特徴です。ただし、強い磁場を使うので、ペースメーカや除細動器など体に金属を埋め込んだ患者さんは、原則としてこの検査はできません。
4. 下肢動脈造影検査
1~3までの検査は外来で検査できますが、下肢動脈造影検査は入院が必要になります。手首や肘、ふとももの付け根の動脈を局所麻酔し、カテーテルを挿入し、下肢動脈の近くまでカテーテルを近づけて造影を行います。より詳細な血管の情報を得る事ができ、治療方針の決定に役立ちます。また、同時に心臓の冠動脈などその他の血管の造影検査を行うこともあります。
治療
1. 生活習慣の改善
この病気は生活習慣病なので食事・運動・睡眠・喫煙といった生活習慣を改善することが、病気の悪化・予防に役立ちます。特に喫煙とこの病気との因果関係ははっきりしていますので、禁煙は予防・治療の大原則です。
2. 運動療法
間欠性跛行の患者さんに有効です。運動は血液不足の足への血流を増やす効果がある上、高血圧症をはじめ脂質異常症、糖尿病などを管理する上でも重要です。1回30分程度、できれば1日2回を目標に最低でも週に3回程度行うのが好ましいです。
3. 薬物療法
薬物療法は足へ向かう血流を増やして症状を改善する一方、心臓や脳の血流もよくすることを目的として、抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)や血管拡張薬(血管を広げる薬)が使われることがあります。
4. 血行再建術(カテーテル治療、血管手術)
カテーテル治療は血管の狭い部分もしくは詰まっている部分にワイヤーを通して、風船やステント(金属チューブ)等を使用して元々の動脈を広げる手術です(図2)。従来カテーテルでは治療困難であった症例であっても、技術や道具の進歩により治療成績は飛躍的に向上しています。
図2
血管手術には血管の狭くなっているところ、もしくは詰まっているところの先に、自分の血管(足の静脈)や人工血管をつなぎ合わせるバイパス手術や、動脈を切開し硬く、分厚くなった内膜と付着した血栓を剥がす血栓内膜摘除術があります(図3)。
図3
当院では心臓内科と心臓血管外科とが密に情報交換を行い、適切な選択肢を提示させていただくことができます。 また、それぞれの利点を生かすため心臓内科と心臓血管外科が協力してカテーテル治療と手術を一度に行うこと(ハイブリット手術)もあります。
文責 河合