心房細動
心房細動とは?
心房細動とは、心房が300-400回/分の高頻度で無秩序に興奮と弛緩を繰り返す不整脈で、最も有病率の高い不整脈の一つです。多くの場合、心室も100-150回/分と頻拍になり、動悸や息切れといった症状を自覚し発見されますが、症状が少ないあるいは軽度の場合もあります。時に心房細動により徐脈となる場合もあります。心室性不整脈のように直接生命を脅かすことは少ないですが、不整脈による頻脈により運動能力および生活の質を低下させます。また心房細動により心不全を発症したり、心原性脳梗塞の原因にもなります。日本人の平均寿命が高くなるにつれ患者数は増加しており、社会的に大きな問題になっています。
心房細動発生と維持に関するメカニズム
心房細動が発生し、持続するメカニズムは不明な点も多く、十分解明されておりません。現在有力な仮説として、その要因はトリガーとドライバーであると考えられております。トリガーは心房細動を発生させる異常頻回興奮で、その9割が肺静脈(肺から心臓に血液が返ってくる血管。通常上下左右4本あります)周囲に存在すると考えられております。この異常興奮が肺静脈内あるいは心房の基質(頻回興奮が持続することによる、または圧負荷がかかることによる心筋の電気的・構造的障害)に伝わり、局所的な小さな旋回路を形成し、心房細動が維持されます。心房細動が持続すれば持続するほど、心筋障害が進み、心房細動になりやすく、また止まりにくくなるとされております。
図1 心房細動発生と維持に関するメカニズム
心房細動の有病率と要因
心房細動は最も有病率の高い不整脈の一つであり、年齢が進むにつれて上昇します。日本循環器学会の調査では、70歳代で男性3.4%、女性1.1%、80歳以上では男性4.4%、女性2.2%でありました。関連する因子として、高血圧、糖尿病、肥満、睡眠時無呼吸、尿酸、喫煙やアルコール消費量、遺伝や人種などがあり、是正可能なものについては、是正することが重要です。
症状
症状は無症状の方から軽度の胸部違和感、強い動悸、倦怠感、呼吸苦など様々です。欧州不整脈学会からmodified EHRAスコア(表1)が報告されています。およそ40%の方は無症状であったとの報告もあります。
表 modified EHRA スコア
Modified EHRAスコア |
症状 |
説明 |
1 |
なし |
|
2a |
軽度 |
症状はあるものの日常生活に支障はなく、症状がきにならない |
2b |
中等度 |
症状があり、日常生活に支障はないものの、症状が気になり困っている |
3 |
重度 |
症状が強く、日常生活に支障をきたしている |
4 |
強い障害 |
症状が非常に強く、日常生活が続けられない |
心房細動の分類
心房細動は発作性心房細動で発症し、発作を繰り返しながら発作の頻度と持続時間が増加し、持続性および永続性心房細動に移行することが多いと考えられています。しかし、初めて診断された心房細動が自然停止せず持続性心房細動に移行することもあります。
図2 心房細動の分類
診断方法
心房細動が持続している場合には、通常の心電図で診断することが可能です。発作性心房細動の場合、問診により心房細動が疑われる場合には、Holter心電図や不整脈発作出現時に12誘導心電図で診断が確定します。発作の頻度が少ない場合には携帯型心電計という持ち運びができて、いつでも心電図記録ができる機器が有用です。動悸症状がない場合で、脳梗塞の原因として心房細動が疑われ場合などは、植え込み型心電計を使用する場合もあります。
心房細動の問題点と包括的管理の必要性
心房細動の死因として、脳梗塞よりも心不全死や突然死が多いことが知られています。心房細動患者さんの1-2割は毎年なんらかの理由で入院をし、多くの患者さんで動悸あるいは合併する心不全症状により生活の質が阻害されます。脳梗塞を予防する薬を内服していても、認知機能が低下することが最近注目されています。心房細動は、不整脈そのものだけでなく、高血圧や糖尿病、甲状腺疾患や心臓弁膜症を含む心疾患など全身の評価と管理が長期間にわたって必要となります。当センターではかかりつけ医の先生と協力しながら患者さんの長期間のケアをしております。
治療方法
心房細動の治療は大きく分けて脳梗塞予防と不整脈そのものに対する治療に分けられます。
脳梗塞予防
抗凝固療法という血液が固まりにくくなる薬を脳梗塞リスクに応じて内服する必要があります。脳梗塞リスクは、CHADS2 score(心不全がある(Chronic heart failure:1点)、高血圧がある(Hypertension:1点)、75歳以上(Age:1点)、糖尿病を有する(Diabetesmellitus:1点)、脳梗塞既往がある(Stroke::2点))により評価し、1点以上あれば抗凝固療法を開始することが推奨されています。以前はワルファリンという殺鼠剤から開発された薬しかありませんでしたが、10年ほど前からDOACといわれる薬が登場し、安全性、有効性が飛躍的に高くなりました。現在4剤が市販されておりますが、年齢、体重、腎機能、その他合併する疾患で最適な薬が異なります。
不整脈そのものに対する治療
不整脈そのものに対する治療も大きく分けて2つに分類されます。一つは正常な脈を取り戻す治療(リズムコントロール)です。もう一つは、不整脈自体は受け入れて脈拍が早くなることを抑えることで動悸や心不全などの症状を軽減する治療(心拍数コントロール)です。
リズムコントロールとしては、薬物によるものとカテーテル治療によるものがあります。薬物によるものは、薬物によりトリガーやドライバーなどの電気的性質を変化させることで不整脈を停止・抑制します。トリガーやドライバーそのものがなくなるわけではないので、継続した治療が必要となります。一方カテーテルの治療(カテーテル心筋焼灼術)は、肺静脈周囲を囲むように焼灼することにより心房細動のきっかけとなる異常頻回興奮が心房に伝わらなくなり、心房細動になりにくくなるという方法です。詳しくは心房細動カテーテルアブレーションをご参照ください。
心拍数コントロールは、房室結節の伝導を抑えるお薬により、心拍数が早くならないようにする治療です。たとえ心房が300-400回/分で興奮と弛緩を繰り返していても、それが心室に伝わらなければ心拍数そのものは押さえることができます。薬の効果が十分得られず、心不全が悪化する場合には、房室結節の伝導をカテーテルで焼灼することで断ち切り、ペースメーカで心拍数を補う方法もあります。
最適な治療は患者さん一人ひとりで異なっております。詳しくはかかりつけの先生または担当医にご相談ください。
文責 川崎