植え込み型除細動器

植え込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator : ICD)とは

適応となる病気とのその症状

植え込み型除細動器は英語の頭文字をとって「ICD」と言われています。ICDは心室頻拍や心室細動といった命に関わる重症な心室性不整脈を経験した患者様、あるいはその可能性が高いと予測される患者様が適応となります。心室頻拍では動悸、めまい、失神、倦怠感、血圧低下などが生じます。心拍数の速い心室頻拍では失神、突然死につながります。心室細動は心室がけいれんした状態になり、心臓から血液を送り出すことが出来なくなるため心停止と同じ状態となります。

ICDの機能

ICDは心臓の脈拍を常に監視しており、ある一定の脈拍を超え、心室細動や心室頻拍といった致死性不整脈と判断された場合に治療を行います。治療は「ペーシング治療」と「電気ショック治療」があります。「ペーシング」はICDが設定心拍数以上(通常180回/分以上などに設定)の心室頻拍を感知した場合、その心室頻拍よりやや早いリズムで短時間心臓を刺激することにより心室頻拍を停止させる機能です。「ペーシング治療」で不整脈が停止した場合は痛みもなく心室頻拍が停止し、正常な脈を回復することができ、治療による症状はありません。しかしながら、「ペーシング治療」で停止しない場合、ICDは自動的に「電気ショック治療」に移ります。「電気ショック治療」は電気刺激を一瞬心臓全体に流す治療です。患者様が不整脈により意識を失っていなければ一瞬痛みを感じることがあります。ICDが作動する脈拍や「ペーシング治療」の回数、「電気ショック治療」における電気刺激の強さなどは患者様の疾患に合わせて変更することが可能です。 また、脈が遅くなった場合にはペースメーカとしての機能も有しております。

ICDの構造と植え込み手術

ICDも徐脈性心疾患に用いるペースメーカと同様に電池(本体)とリード(1本もしくは2本)からなっています(写真1)。本体は「電気ショック治療」を行うことが出来るように通常のペースメーカよりも大きくなっております(写真引用)。植込み手術は4~5日程度の入院が必要で手術時間は1時間から2時間程度です。局所麻酔で行うことが多いのですが患者様の状態や作動の確認のため点滴で鎮痛剤や鎮静剤を用いることもあります。外来では3~6か月ごとにICDの作動状況をチェックする必要があります。電池寿命はショックなどの頻度によってかなり影響を受けますが、4~7年で電池交換手術が必要になります。

写真1 植え込み型除細動器

完全皮下植込み型除細動器(sub-cutaneous ICD : S-ICD)

通常のICDは本体の他にリードがあり、リードは経静脈的に心臓内に留置する必要があります。2016年より経静脈リードを必要としない完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)が使用できるようになりました。経静脈的にリードを挿入しないことから,術後急性期合併症としての血気胸やリードの位置移動などは発生せず、慢性期合併症としての経静脈リードの癒着による三尖弁機能障害や,感染性心内膜炎などの合併症がない、リード断線によるトラブルがない、という利点があります。一方、ICDの治療機能である「ペーシング治療」の機能は有しておらず「電気ショック治療」のみになることや本体が通常のICDよりやや大きいことなどの欠点もあります。通常のICDがよいかS-ICDが良いかは患者さんの年齢や疾患・病状により異なります。

写真2 完全皮下植え込み型ICD(S-ICD)

文責 渡部